東洋医学の「肝」とストレスの関係 ― 気の巡りと感情を考える

2026年10月31日 12:54



「最近、なんだかイライラしやすい」

「ちょっとしたことが気になってしまう」

「ストレスがたまると、身体までこわばる気がする」

そんな経験はありませんか?

私たちの心と身体は、日々さまざまな出来事や環境の影響を受けています。

忙しい毎日や人間関係、思い通りにいかない出来事など。

そうしたストレスを感じたとき、気持ちだけでなく、身体にも変化が現れることがあります。

東洋医学では、こうした心と身体のつながりを考える際に、「肝(かん)」という概念が登場します。

肝というと、一般的には肝臓を思い浮かべるかもしれません。

しかし、東洋医学における「肝」は、現代医学の肝臓とは異なる概念です。

今回は、東洋医学の「肝」が持つ働きや、ストレス・感情との関係について、現代の心身医学の視点も交えながら考えてみたいと思います。

東洋医学の「肝」と肝臓は違う?

まず、東洋医学の「肝」について考えてみましょう。

現代医学における肝臓は、栄養素の代謝や解毒、胆汁の生成など、さまざまな働きを担っている臓器です。

一方、東洋医学における「肝」は、こうした解剖学的な肝臓だけを指すものではありません。

東洋医学では、身体の働きや感情、生活環境などを関連づけながら、全体の状態を捉えてきました。

その中で「肝」は、気の巡りや血の貯蔵、感情の変化などと関係する機能的な概念として考えられています。

つまり、東洋医学で「肝の働きが乱れている」と表現する場合でも、それが現代医学における肝臓の病気を意味するわけではありません。

この違いを理解しておくことが大切です。

肝の重要な働き「疏泄(そせつ)」とは?

東洋医学における肝の代表的な働きの一つが、「疏泄(そせつ)」です。

疏泄とは、気の流れをのびやかに保ち、身体全体の働きを調整するという伝統的な考え方です。

例えば、川の流れを想像してみてください。

水が自然に流れているとき、川は周囲の地形に合わせながら流れ続けています。

しかし、途中で大きな障害物があると、水の流れが滞ったり、別の方向へ流れたりすることがあります。

東洋医学では、私たちの身体の働きについても、このような「巡り」という視点から考えることがあります。

気がのびやかに巡っている状態は、心身のさまざまな働きが円滑に行われている状態として捉えられます。

反対に、気の巡りが滞った状態は「気滞(きたい)」と呼ばれます。

特に、肝の疏泄機能がうまく働いていないと考えられる状態を「肝気鬱結(かんきうっけつ)」といいます。

東洋医学では、このような状態と、イライラや気分の落ち込み、胸や脇の張り感などを関連づけて考えることがあります。

ただし、気の巡りや気滞は東洋医学独自の概念であり、現代医学で直接測定できる血流や神経活動と同じものではありません。

そのため、症状だけから気滞や肝気鬱結を断定することはできません。

なぜ「肝」はストレスや感情と関係するの?

東洋医学では、肝は感情の変化とも深く関係すると考えられてきました。

特に、五行において肝と関連づけられる感情が「怒」です。

怒というと、怒鳴ったり、激しく腹を立てたりすることを想像するかもしれません。

しかし、ここではもう少し広く、イライラや不満、思い通りにならないことへの反応なども含めて考えることができます。

例えば、仕事で自分の思い通りに物事が進まないとき。

あるいは、自分の気持ちをうまく表現できず、我慢し続けているとき。

そんなときに、イライラやもどかしさを感じることがあります。

東洋医学では、こうした感情の変化を、肝の疏泄という働きと関連づけて捉えてきました。

ここで大切なのは、怒りやイライラそのものが悪いわけではないということです。

怒りは、自分にとって大切なものが脅かされたときや、不公平な出来事に直面したときなどに生まれる自然な感情でもあります。

場合によっては、自分の意思を伝えたり、状況を変えたりするためのきっかけにもなります。

問題になるのは、怒りを感じること自体というよりも、その感情によって自分が苦しくなったり、日常生活に支障が出たりする場合です。

感情を無理に抑え込むのではなく、まずは自分が何を感じているのかに気づくこと。

そこから、自分に合った対処方法を考えていくことが大切なのではないでしょうか。

ストレスを感じると、なぜ身体までこわばるの?

ここで、現代医学の視点からも考えてみましょう。

私たちがストレスを感じたとき、脳や自律神経、内分泌系などが関わるストレス応答が生じます。

例えば、緊張する場面では、心拍数が増えたり、呼吸が速くなったりすることがあります。

また、筋肉の活動にも変化が生じ、肩や首などに力が入りやすくなる場合があります。

これは、身体が状況に対応しようとする反応の一つです。

例えば、人前で話すとき。

緊張して肩に力が入ったり、呼吸が浅く感じられたりした経験はないでしょうか。

こうした身体の変化は、ストレスと心身の働きが関係していることを示す身近な例です。

ただし、ストレスによる身体反応には個人差があり、必ずしもすべての人に同じ変化が起こるわけではありません。

また、身体のこわばりや痛みには、さまざまな原因が考えられます。

そのため、身体の不調をすべてストレスによるものと考えることも適切ではありません。

東洋医学の「気の滞り」と、現代医学のストレス応答は同じ仕組みではありませんが、心と身体の状態を切り離さずに考えるという点では、共通する視点を見いだすことができます。

陰陽五行の「木」と、のびやかさの関係

東洋医学の五行では、肝は「木」に属します。

木は、草木が成長し、枝葉を伸ばしていくような性質を象徴しています。

例えば、春になると、植物は芽を出し、少しずつ成長していきます。

枝を伸ばし、葉を広げ、周囲の環境に合わせながら成長していく。

そんな木の姿には、のびやかさや発展していく力を感じることができます。

東洋医学では、この木の性質と、肝の疏泄という働きを関連づけて考えます。

つまり、肝は、物事が滞らず、のびやかに展開していく性質を持つものとして捉えられているのです。

ここで、私たちの日常生活について考えてみましょう。

やりたいことがあるのに、なかなか行動できない。

自分の気持ちを伝えたいのに、我慢してしまう。

思い通りに進まないことが続いている。

そんなとき、どこか窮屈さを感じることはないでしょうか。

もちろん、こうした心理状態を東洋医学の肝だけで説明できるわけではありません。

しかし、自分の中にあるものを、のびやかに表現できること。

そして、状況に合わせて柔軟に変化できること。

そんな視点から、心と身体の状態を見つめ直してみるのも面白いかもしれません。

感情は、無理に抑え込まない方がいい?

イライラしたときや、怒りを感じたとき。

「こんなことで怒ってはいけない」

「もっと穏やかでいなければ」

そんなふうに考えることはありませんか?

もちろん、感情に任せて行動することが、いつでもよい結果につながるわけではありません。

しかし、感情を感じること自体を否定する必要もありません。

例えば、怒りを感じたとき。

その怒りの背景には、何か大切にしたい価値観があるのかもしれません。

あるいは、疲れがたまっていたり、余裕がなくなっていたりするのかもしれません。

感情は、私たちの状態や、周囲の環境との関係を知るための手がかりになることがあります。

そのため、感情をすぐに消そうとするのではなく、

「今、自分は何を感じているのだろう?」

と観察してみる。

そして、その感情が生まれた背景に目を向けてみる。

こうした自己観察は、自分の状態を理解するための一つの方法です。

ただし、感情を無理に掘り下げ続ける必要もありません。

ときには気分転換をしたり、安心できる人に話したり、十分に休息を取ったりすることが役立つ場合もあります。

大切なのは、感情を抑え込むことでも、感情に振り回されることでもなく、自分の状態に気づきながら、適切な行動を選んでいくことなのです。

東洋医学の肝を意識した、日常の養生

では、東洋医学の「肝」や「気の巡り」という視点から、日常生活ではどのようなことを意識するとよいのでしょうか。

ここでは、無理なく取り入れやすい養生のヒントをご紹介します。

① 身体をのびのびと動かしてみる

長時間同じ姿勢で過ごしていると、身体にこわばりを感じることがあります。

そんなときは、無理のない範囲で身体を動かしてみましょう。

例えば、軽く散歩をする。

肩や背中をゆっくり動かしてみる。

気持ちよく伸びをしてみる。

適度な身体活動は、気分転換やストレスへの対処にも役立つことがあります。

東洋医学の「木」が持つ、のびやかさのイメージとも重なる養生です。

② 呼吸に意識を向けてみる

ストレスを感じているとき、呼吸が速くなったり、浅く感じられたりすることがあります。

そんなときは、少しだけ呼吸に意識を向けてみましょう。

今、どのように息を吸っているのか。

どのように息を吐いているのか。

無理に深く呼吸しようとせず、まずは自然な呼吸を感じてみることから始めてみましょう。

呼吸に意識を向けることは、自分の心身の状態に気づくきっかけにもなります。

③ 感情を言葉にしてみる

なんとなくイライラする。

なんとなく落ち着かない。

そんなときは、自分の気持ちを言葉にしてみるのも一つの方法です。

「今日は少し疲れているのかもしれない」

「本当は、あの出来事が嫌だったのかもしれない」

「少し一人の時間が欲しいのかもしれない」

言葉にすることで、自分が何を感じているのか整理しやすくなることがあります。

紙に書いてみたり、信頼できる人に話してみたりするのもよいでしょう。

④ 頑張る時間と、緩める時間をつくる

仕事や家事などで忙しいと、つい頑張り続けてしまうことがあります。

しかし、活動し続けるためには、休息も必要です。

東洋医学の陰陽では、活動と休息を互いに関係するものとして捉えます。

頑張ることだけでなく、ときには力を抜くことも大切です。

一日の中に、少しだけ自分のための時間をつくってみる。

それも、心と身体の余白を育てる養生の一つです。

まとめ|気の巡りと、心と身体の余白

東洋医学における「肝」は、気の巡りや感情の変化などと関係する概念として考えられてきました。

特に、肝の「疏泄」という働きは、気をのびやかに巡らせるものとして捉えられています。

そして、五行では「木」に属し、感情では「怒」と関係づけられています。

ただし、イライラや怒りを感じることが、必ずしも悪いわけではありません。

感情は、私たちが日々の出来事や環境に反応する中で生まれる自然なものです。

大切なのは、その感情を無理に消そうとすることではなく、自分が何を感じているのかに気づくこと。

そして、必要に応じて休息を取ったり、行動を変えたり、気持ちを表現したりすることです。

以前の記事では、「整う」とは、変化の中でバランスを保つことではないか、というお話をしました。

今回の「肝」と「気の巡り」についても、そこにつながる部分があります。

心も身体も、いつでも同じ状態である必要はありません。

感情が動くこともあれば、身体が緊張することもあります。

大切なのは、その変化に気づき、自分に合った方法で調整していくこと。

そして、ときには頑張り続けることをやめて、自分自身に少しの余白をつくってみることです。

心と身体にスペースが生まれることで、今まで気づかなかった自分の気持ちや、新しい選択肢が見えてくるかもしれません。

今日も、自分の心と身体に少しだけ意識を向けてみませんか?

心と身体にスペースをつくる整体サロン

当サロンでは、理学療法士としての身体の見方に加え、オステオパシーや東洋医学・陰陽五行の視点も取り入れながら、お一人おひとりの状態に合わせた施術を大切にしています。

日々のストレスや忙しさの中で、身体の緊張や疲れが気になっている方。

自分の心と身体に、少し目を向ける時間を持ちたい方。

そんな方は、どうぞお気軽にご相談ください。

※当サロンの施術は、精神疾患や身体疾患の診断・治療を目的とするものではありません。強い不調や症状が続く場合には、医療機関へご相談ください。

心と身体にスペースをつくる。

帰り道、何気ない自然が気持ちいい。

そんな時間につながれば幸いです。

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