何も予定がない時間。
何もせず、ただぼんやりしている時間。
そんな時間を過ごしていると、なんとなく「もったいない」と感じることはありませんか?
せっかく時間があるのだから、何かをしたほうがいい。
スマートフォンで情報を調べたり、動画を見たり、次の予定を考えたり。
気がつけば、何もしていない時間がほとんどなくなっている。
現代の私たちは、以前よりも手軽に情報へアクセスできるようになりました。
その一方で、意識的に何かをしていなくても、頭の中では常に何かを考えていることがあります。
では、私たちにとって「何もしていない時間」には、どのような意味があるのでしょうか?
今回は、脳の働きや自律神経という視点から、心と身体に余白をつくることの大切さについて考えてみましょう。
① 何もしていないとき、脳は休んでいる?
まず、興味深いのは、私たちの脳は何もしていないときでも活動しているということです。
例えば、椅子に座ってぼんやりしているとき。
目を閉じて静かに過ごしているとき。
何かの作業に集中しているわけではなくても、脳の活動が止まることはありません。
脳は、呼吸や体温調節など生命を維持するための働きに関わるだけでなく、記憶や感情、身体の状態など、さまざまな情報を処理しています。
そして、特定の課題に集中していないときに活動が目立つ脳のネットワークとして、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と呼ばれるものがあります。
DMNは、自分自身について考えたり、過去の出来事を思い出したり、未来を想像したりすることなどに関係しています。
つまり、何もしていないように見える時間にも、脳の中ではさまざまな活動が行われているのです。
ただし、DMNが働いていること自体が、脳の疲労回復を意味するわけではありません。
ぼんやりしているときに考え事が止まらなくなり、かえって疲れてしまうこともあります。
大切なのは、何もしていない時間を単純に「脳が停止している時間」と考えないことです。
② 私たちは、思っている以上に注意を使っている
私たちは日常生活の中で、さまざまなことに注意を向けています。
仕事をするとき。
人と会話するとき。
車を運転するとき。
スマートフォンで情報を見るとき。
そのたびに、脳は必要な情報を選び、判断し、行動につなげています。
こうした働きには、注意力やワーキングメモリなどの認知機能が関係しています。
例えば、仕事中に複数の作業を同時に進めようとすると、頭の中がいっぱいになったように感じることがありますよね。
これは、私たちが一度に処理できる情報や、注意を向けられる範囲には限りがあるためです。
そして、注意を必要とする活動が長く続くと、精神的な疲労が生じることがあります。
そんなとき、いったん作業から離れることで、注意を向ける対象が変わり、負担が軽く感じられる場合があります。
何もしていない時間は、何かに集中し続けていた状態から離れる機会にもなるのです。
③ スマートフォンを見ている時間は、休息になる?
ここで少し、日常生活を振り返ってみましょう。
仕事が終わって、ようやく自由な時間ができた。
ソファに座って、スマートフォンを開く。
SNSを眺めたり、動画を見たり、ニュースを読んだり。
気づけば、あっという間に時間が過ぎている。
そんな経験はないでしょうか?
もちろん、スマートフォンを見ることが悪いわけではありません。
好きな動画を見て笑ったり、友人とやり取りしたりすることが、気分転換につながる場合もあります。
ただし、スマートフォンを使っている間も、私たちはさまざまな情報を受け取っています。
次々に表示される画像や文章。
新しい通知。
興味を引くニュース。
こうした刺激に注意を向け続けることで、頭が休まらないと感じることもあります。
また、就寝前の長時間の使用は、内容による心理的な刺激や光の影響などを通して、睡眠に影響する場合もあります。
つまり、身体を動かしていないことと、心身が休まっていることは、必ずしも同じではないのです。
ときには、スマートフォンを置いて、何もせずに過ごしてみる。
そんな時間が、普段とは違った休息のきっかけになるかもしれません。
④ 「何もしない時間」が生み出す余白
何かに集中しているとき、私たちの注意は特定の対象へ向けられています。
例えば、仕事のことを考えているときには、仕事に関係する情報が意識の中心になりやすいでしょう。
一方で、そこから少し離れてみると、今まで気づかなかったことに目が向く場合があります。
窓の外で揺れている木の葉。
遠くから聞こえる鳥の声。
自分の呼吸。
身体の重さや温かさ。
普段からそこにあったものでも、忙しいときには気づかなかったりするものです。
こうした変化には、注意の向け方が関係しています。
何か一つのことに集中し続ける状態から離れることで、周囲の環境や身体の感覚に注意を向ける機会が生まれます。
また、課題から一時的に離れることが、その後の発想や問題解決に役立つ場合もあります。
これは、心理学では「インキュベーション効果」と呼ばれる現象とも関係しています。
ただし、何もしなければ必ず良いアイデアが生まれるというわけではありません。
それでも、何かをし続けることだけが、私たちにとって有意義な時間の使い方とは限らないのです。
⑤ 何もしない時間を、どう過ごせばいい?
では、日常生活の中で、どのように余白をつくればよいのでしょうか?
ここでは、簡単に取り入れられる方法を3つ紹介します。
1.数分間、何もしない時間をつくる
例えば、仕事の合間や帰宅後。
スマートフォンを置いて、数分間だけ静かに過ごしてみましょう。
無理に瞑想をしたり、何も考えないようにしたりする必要はありません。
ただ、少しの間、何かをしようとすることから離れてみる。
それだけでも、普段とは違った時間の使い方になります。
2.自然を眺めてみる
窓の外の空。
風に揺れる草木。
流れていく雲。
そんな自然の風景を、何となく眺めてみるのもよいでしょう。
自然環境に触れることは、ストレスの軽減や注意機能の回復などとの関連が研究されています。
もちろん、必ずしも遠くの自然豊かな場所へ行く必要はありません。
身近な公園や街路樹、空の様子など、日常の中にも自然を感じられるものがあります。
3.自分の身体の感覚に目を向ける
静かに過ごしているとき、少しだけ身体の感覚に注意を向けてみましょう。
今、どんな呼吸をしているでしょうか?
肩に力は入っているでしょうか?
身体は温かいでしょうか?
それとも、少し冷えているでしょうか?
何かを変えようとする必要はありません。
まずは、今の自分の状態に気づいてみる。
そうした観察が、自分自身のコンディションを知るきっかけになることもあります。
ただし、身体の感覚に注意を向けることで、かえって不安や不快感が強くなる方もいます。
そんなときには無理をせず、外の景色や周囲の音など、自分にとって心地よいものへ注意を向けてみてください。
⑥ 休むことまで、頑張らなくていい
ここまで、何もしない時間の大切さについて考えてきました。
しかし、最後に一つお伝えしたいことがあります。
それは、「何もしない時間をつくらなければ」と頑張りすぎなくてもいいということです。
例えば、
「毎日10分間は何もしないようにしよう」
「休息のために、必ず瞑想をしよう」
「スマートフォンを見る時間を減らさなければ」
そんなふうに考えることで、かえって負担を感じてしまうこともあるかもしれません。
もちろん、生活習慣を整えることは大切です。
しかし、休息まで義務のようになってしまうと、本来の目的から離れてしまうこともあります。
何もしない時間は、何かを達成するためだけに存在しているわけではありません。
ただ、心地よく過ごす。
ぼんやりと景色を眺める。
何となく身体を休める。
そんな時間があってもいいのではないでしょうか。
まとめ|何もしない時間も、大切な時間
私たちは、何かをしている時間に価値を感じやすいものです。
仕事をする。
勉強する。
運動する。
情報を集める。
もちろん、そうした活動は大切です。
しかし、何かをし続けることだけが、心身にとって良いとは限りません。
ときには、考えることから少し離れる。
何かに集中することをやめてみる。
周囲の自然や、自分の身体の感覚に目を向けてみる。
そんな時間が、忙しい日常の中に余白を生み出すきっかけになるかもしれません。
何かをする時間も大切。
そして、何もしない時間も大切。
心と身体に、少しのスペースを。
その余白が、日常の何気ない心地よさに気づくきっかけになるかもしれません。
当サロンでは、身体の状態だけでなく、日々の生活習慣や心身の緊張にも目を向けながら、一人ひとりに合わせた施術を大切にしています。
理学療法士としての身体の評価に加え、オステオパシーや身体の自然なバランスを整える考え方も取り入れながら、心と身体に余白をつくるお手伝いをしています。
忙しい毎日の中で、自分自身の身体に目を向ける時間は、意外と少ないものかもしれません。
だからこそ、施術を受ける時間が、自分の心と身体の状態に気づくきっかけにもなればと考えています。
心と身体にスペースをつくる。
日常を、もう少し軽やかに楽しむために。